斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』
前回のブログでは、環境問題やグローバル・サウスからの搾取について書いた。
popololo-nyanya.hatenablog.com
前回の続きを書いていきたいと思う。
この本によれば、「地球温暖化の危機に立ち向かうためには、資本主義システムの中で対策をしてもダメ」だという。その理由をまとめてみた。
温暖化対策に技術だけで立ち向かうのは無理?
新たな技術を開発し、二酸化炭素排出量を抑えて経済発展すればいいじゃん!と考える人は多かろう。私もそう思っていた。
そういう緑の経済発展を、政府が財政出動することで実現するという主張を気候ケインズ主義という。
<気候ケインズ主義とは>
再生可能エネルギーや電気自動車を普及させるため、大型財政出動や公共投資を行う
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雇用を作り出し、有効需要を増やし、景気を刺激する
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好景気がさらなる投資を生み、持続可能な緑の経済への移行を加速させる
本書では気候ケインズ主義を否定する。
経済成長をしながら二酸化炭素排出量を減らすのは不可能だということだ。
経済成長しながら二酸化炭素を出さないのは不可能
経済成長が順調であればあるほど、経済活動の規模が大きくなり、資源消費量が増大する。
2~3%のGDP成長率を維持しつつ、2100年までの気温上昇1.5℃以下という目標を達成するためには、二酸化炭素排出量を今すぐにでも10%前後のペースで削減する必要がある。
だが、市場に任せたままで年10%もの急速な排出量削減ができる可能性は無いだろうと斎藤氏は言う。
ガソリン車を電気自動車に変えても二酸化炭素は1%しか削減できない
温暖化対策としてよく取り上げられる電気自動車は、その生産過程をみるとそれほどグリーンではないという。
電気自動車に積むリチウムイオン電池。この原料であるリチウムとコバルトを採掘するためには、環境破壊は避けて通れない。
リチウムは地下水の中に溶け込んでおり、その水を蒸発させることで採取されるのだが、1社だけでも毎秒1700Lもの地下水をくみ上げている。そのせいで、周辺の水不足を引き起こしている。
コバルトの採掘も、周辺の水質汚染、農作物汚染、景観破壊を引き起こしている。
さらに労働環境も悪い。地下での有害物質を吸いながらの奴隷労働、児童労働が蔓延しており、子どもが作業中の事故で生き埋めになっている。
電気自動車の生産、その原料の採掘でも石油燃料が使用され、二酸化炭素が排出される。
また、電気自動車のせいで増大する電力消費量を補うために、ますます多くの太陽光パネルや風力発電の設置が必要となり、そのために資源が採掘され、発電装置の製造でさらなる二酸化炭素が排出される。
IEA(国際エネルギー機関)によれば、2040年までに、電気自動車は現在の200万台から2億8000万台にまで伸びるという。ところが、それで削減される世界の二酸化炭素排出量はわずか1%とされている。
というわけで、電気自動車にかえたところで、二酸化炭素排出量は大して減らないらしい。
じゃあ、何のために世界をあげて電気自動車に変えようとしているのか…?
これについては様々な噂が飛び交っているよね…
資本主義には生産性の罠がある
資本主義はコストカットのために労働生産性を上げようとする
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労働生産性が上がれば、より少ない人数で今までと同じ量の生産物を作ることができる
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経済規模が同じままなら、失業者が生まれてしまうが、資本主義の下では失業者たちは生活していくことができないし、政治家は失業率が高いことを嫌う
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雇用を守るために、絶えず、経済規模を拡張していくよう強い圧力がかかる
資本主義は生産性の罠から抜け出せず、経済成長を諦めることができない。
気候変動対策をしようにも、資源消費量が増大する経済成長の罠にはまってしまう。
というわけで、「経済成長と二酸化炭素削減は両立できない」というのがこの本の主張である。
そこで、出てくるのが脱成長という提案である。
ただし、この本では、「電力や安全な水を利用できない、教育が受けられない、食べ物が十分にない人々には経済成長は必要である」とも言っている。
政治経済学者ケイト・ラワースは以下のように述べているそうだ。
- 今の総供給カロリーを1%増やすだけで、8億5000万人の飢餓を救うことができる
- 電力が利用できない13億人に電力を供給しても、CO2排出量は1%増加するだけ
- 1.25ドル/日以下で暮らす14億人の貧困を終わらせるためには、世界の所得のわずか0.2%を再配分すれば足りる
仮にこういった国々で資源やエネルギー消費がより多く必要になるとしても、追加的な負荷は一般に想定されるよりもずっと低いという。
今回はここまでにして、
次回は、環境問題の解決方法としてこの本が提案している「脱成長コミュニズム」について書こうと思う。
~続く~
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