すやすや生活日記

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【斎藤幸平 著】人新世の「資本論」<3>脱成長コミュニズム

斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』

前回のブログでは、「経済成長と二酸化炭素削減が両立できない理由」について書いた。

popololo-nyanya.hatenablog.com

 

経済成長を必須とするシステムが資本主義だ。つまり、資本主義のもとでは二酸化炭素削減をするのがほぼ不可能だという。

今回は、資本主義の代替としてこの本で提案されている「脱成長コミュニズム」についてまとめていきたい。

 

まず、コミュニズムについて詳しく話す前に、資本主義について書いていきたいと思う。

 

共産主義社会主義が良いというわけではない

この本は資本主義を批判するからといって、「共産主義社会主義が良い」と言っているわけではない。

そして、マルクスは将来社会を描く際に「社会主義」「共産主義」という表現をほとんど使っていないそうだ。その代わりに使っていたのが「アソシエーション」という用語。

マルクスは、コモンが再建された社会を「アソシエーション」と呼んでいた。

 

資本主義のダメなところ

ここからは資本主義の悪口を言っていこう。

 

①希少性を生み出すために潤沢さを減らす

経済学者のローダデール伯爵によれば、資本は希少性のために作物の収穫量を減らすという。

例えば・・・

  • タバコの収穫量が多すぎる場合に、あえて収穫物を燃やす
  • ワインの生産量を減らすために、法律でワイン用のブドウ畑の工作を禁止する

過剰供給は価格を下げてしまうので、価格を維持するためにわざと破棄される。

 

②「価値」が優先され「使用価値」が犠牲になる

使用価値」とは、水や空気などがもつ、人々の欲求を満たす性質である。これは資本主義の成立よりもずっと前から存在している。
それに対して「価値」は貨幣で測られ、市場経済においてしか存在しない。

 

例えば、時計としての「使用価値」は、ロレックスもカシオも大して変わらないのに、ブランド化や広告で人工的に作られた希少性によって、「価値」は全く違うものになる。

みんながフェラーリやロレックスを持っていたら、スズキの軽自動車やカシオの時計と変わらなくなってしまう。

フェラーリやロレックスの社会的ステータスは、他人が持っていないという希少性にすぎないのだ。

そして、相対的希少性は終わりなき競争を生む。

自分より良いものを持っている人はインスタグラムを開けばいくらでもいるし、買ったものもすぐに新モデルの発売によって古びてしまう。

こうして人々は、理想の姿、夢、憧れを得ようと、モノを絶えず購入するために労働へと駆り立てられ、また消費する。

消費主義社会は、商品が約束する理想が失敗することを織り込むことによってのみ、人々をたえざる消費に駆り立てることができる。

「満たされない」という希少性の感覚こそが、資本主義の原動力なのである。

 

③多くの人に欠乏を生む

ニューヨークやロンドンの不動産価格は、小さなアパートの一室が数億円に上るケースも多く、家賃も毎月数十万~数百万円する。

そうした不動産は、住居目的ではなく投機の対称として売買されている。しかも投機対象の物件は増えるばかりで、誰も住んでいないアパートも多い。

そのかたわらで、家賃が支払えない人々は長年住んでいた部屋から追い出され、ホームレスが増えていく。

比較的裕福な中流層ですら、家賃を払うため過労死寸前まで働かなければ、そういった物件には住めないのが現状だ。

ましてやオフィスや店を開くのは大資本家でないと難しい。

これは多くの人にとって欠乏である。

土地の価格は人工的につけられたものであり、価格が減じたところでその土地の「使用価値」は変化しない。

 

④惨事便乗型資本主義

資本主義にとっては、気候変動はビジネスチャンス。

気候変動は水、耕作地、居住などの希少性を生み出す。希少性が増えれば、その分だけ需要が供給を上回り、それが資本にとっては大きな利潤を上げる機会を提供することになる。これを「気候変動ショック・ドクトリン」という。

同じく、「コロナショック・ドクトリン」に際して、アメリカの超富裕層が2020年春に資産を62兆円も増大させた。

「使用価値」を犠牲にした希少性の増大が私富を肥やす。これが「価値と使用価値の対立」であり、資本主義の不合理さを示す。

 

 

以上、本著に書かれている資本主義の問題点をまとめてみた。

 

次に、斎藤氏が資本主義の代案として掲げる「脱成長コミュニズム」について書いていきたいと思う。

 

コミュニズムとは?

コモン」とは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のことである。

水、電力、住居、医療、教育、生産手段といったものをコモンにしていく。共有財として自分たちで民主主義的に管理するのが「コミュニズム」だ。

これは、アメリカ型の市場原理主義のように、あらゆるものを商品化するのでもなく、ソ連社会主義のようにあらゆるものの国有化を目指すのでもない。

 

これだけだと抽象的すぎてイマイチ良く分からないと思うので、「コモン」という言葉を理解するために、昔のイギリス(16世紀、18世紀)で起きた「コモンズの解体」について書こうと思う。

 

コモンズの解体

イギリスではかつて、入会地のような共有地は「コモンズ」と呼ばれていた。

人々は共有地で果実、薪、魚、野鳥、きのこなど生活に必要なものを採取していた。

 

 

しかし、そのような共有地の存在は資本主義と相容れなかった。みなが生活に必要なものを自前で調達していたら、市場の商品はさっぱり売れないからである。

だから、コモンズは解体され、排他的な私的所有に転換されなければいけなかった。

人々は生活していた土地から締め出され、それまでの採取活動は不法侵入・窃盗となった。

 

生活手段を失った人々の多くは都市に流れ、賃労働者として働くよう強いられた。

低い賃金のため、子供を学校に行かせることもままならず、家族全員が必死に働いた。

それでも、高価な肉や野菜は手に入らない。食材の品質は低下し、入手できる品の種類も減る。時間もないので、伝統的な料理レシピは役立たずのものとなり、じゃがいもをただ茹でたり焼いたりする料理ばかりになっていったというわけだ。

しかし、資本の観点から見れば、土地を追われた人々が労働力を売ることで貨幣を獲得し、市場で生活手段を購買しなければならなくなることで、商品経済は一気に発展を遂げることになる。

 

 

( ´ _ `).oO(「飯がまずい国は戦争が強い」と、どこかで聞いたことがあるけれど、飯がまずい国ほど経済発展している=戦費が調達できるから強いってことなのかなぁ)

 

コモンを取り戻すのがコミュニズム

コミュニズムは、コモンズを再建し、「ラディカルな潤沢さ」を回復することを目指す。これまで貨幣によって利用機会が制限されていた希少な財やサービスを潤沢なものに転化していく。

※ラディカル・・・革新的、急進的

 

この本ではコミュニズムの具体例がいくつか挙げられている。

 

例えば・・・

①電力をコモンに

市民が電力の管理をする「市民電力」

デンマークやドイツで試みが進められているらしい。

日本でも、市民が市議会に働きかけ、私募債やグリーン債で資金を集め、耕作放棄地に太陽光パネルを設置するなど、地産地消型の発電を行う事例が増えている。

エネルギーが地産地消になっていけば、電気代として支払われるお金は地元に落ちる。
営利目的ではないため、収益は地域コミュニティの活性化のために使うことができる。
そうすれば、市民は、自分たちの生活を改善してくれるコモンにより関心を持ち、より積極的に参加するようになる。
このような循環が生まれれば、地域の環境・経済・社会は相乗効果によって活性化していく。

ただし、原子力発電はセキュリティ上の問題から情報を秘密裏に管理されなくてはならず、そのことが隠ぺい体質に繋がり、重要な事故を招いてしまう。市民電力には、再生可能エネルギーのような開放的技術を使うと良いという。

 

②生産手段をコモンに

資本家や株主なしに、労働者たちが共同出資して、生産手段を共同所有し、共同管理する組織をワーカーズ・コープ(労働者協同組合)という。

組合員がみんなで出資し、経営し、労働を営む。どのような仕事を行い、どのような方針で実施するかを、労働者たちが話し合いを通じて主体的に決めていく。

事業を継続するための利益獲得を目指しはするものの、市場での短期的な利潤最大化や投機活動に投資が左右されることは無い。

職業訓練と事業運営を通じて、地域社会へ還元していく「社会連帯経済」の促進を目指す。労働を通じて、地域の長期的な繁栄に重きを置いた投資を計画するのである。

 

この本で例に挙げられている世界のワーカーズ・コープ

日本でも、介護、保育、林業、農業、清掃等の分野でワーカーズ・コープの活動は40年以上続いているという。

 

③その他、コモンにできるもの

教育、医療、インターネット、シェアリングエコノミー、Uber…コモンにできるものはいたるところに存在している。

例えば・・・

  • ウーバーを公有化して、プラットフォームをコモンにする
  • 新型コロナのワクチンや治療薬も世界全体でコモンにする

 

脱成長

ありとあらゆるものがコモンになり、「ラディカルな潤沢さ」が回復されるほど、商品化された領域が減っていく。
そのため、GDPは減少していく。つまり脱成長となる。


だが、それは人々の生活が貧しくなることを意味しないという。
むしろ、貨幣に依存しない領域が拡大し、人々は労働への恒常的プレッシャーから徐々に解放されていく。
その分だけ、人々はより大きな自由時間を手に入れることができる。安定した生活を獲得することで、相互扶助への余裕が生まれる。

そして、消費する化石燃料エネルギーは減る。

 

これまで脱成長は、「環境を守るために、皆が貧相な生活を耐え忍ばなければいけないのか」と批判されてきた。

だが、貧相な生活を耐え忍ぶことを強いる緊縮のシステムは、人工的希少性に依拠した資本主義の方であると斎藤氏は言う。

私たちは、十分に生産していないから貧しいのではなく、資本主義が希少性を本質とするから、貧しいのだ。

私たちは経済成長からの恩恵を求めて、一生懸命に働きすぎた。一生懸命働くのは、資本にとって非常に都合がいい。

希少性を本質にする資本主義の枠内で豊かになることを目指しても、全員が豊かになることは不可能である。

だから、そんなシステムはやめてしまおう。そして、脱成長で置き換えよう。

その方法が「ラディカルな潤沢さ」を実現する「脱成長コミュニズム」である。

 


 

以上、脱成長コミュニズムについての解説でした。

 

この本では、ここからさらにマルクスの「資本論」の最新研究に基づき、労働を抜本的に変革する方法が書かれている。「人新世の資本論」という名前の章に書かれていることだから、この章がこの本の一番肝になるところかもしれない。

が、長くなりそうなので解説は以上にしようと思う。

興味のある方はぜひ本を手に取って読んでみてください。

私は、とりあえず「脱成長コミュニズム」という言葉の意味が知りたかったので、その輪郭が分かっただけでも学びがあった。

 

感想

この本を読んで疑問に思ったことがある。

この本では、脱成長を目指すにあたり、GDPは上げなくて良い、むしろ下がっても良いということを主張している。

GDPはもともと第二次世界大戦をきっかけに生まれた、各国がどれほど戦費調達できるかを計るための指標であり、現在でも国の軍事力を表す指標でもあるのではないだろうか?つまり、GDPが下がることは国の軍事力が落ちるということではないか?と。

 

果たして現在もGDPと軍事力には相関関係があるのか?

気になったので、ネットで適当に調べた世界のGDPランキングと軍事力ランキング(2023年のデータ)をもとに、Excelでグラフ化してみた。

ちなみに、軍事力は軍事力指数(Power Index)であらわされており、値が小さいほど軍事力は高くなる。ただし、この指標の評価基準に核兵器は含まれていない。

 

 

アメリカと中国が飛びぬけてGDPが高いせいで、それ以外の国がごちゃごちゃしてしまうので、横軸を対数にして目盛りの最小値をいじってみた。

なんとなく相関関係がありそうなグラフができた。(専門家じゃないので正しいデータの見方は知らないけれど)

やっぱり、GDPが高いと軍事力も高くなりそう。

あと、ドイツはGDPが高いわりに軍事力が低いことが分かった。2019年だと軍事力指数はそこそこ良いのになんでだろう。

 

データ参照元

世界の軍事力ランキング トップ25 [2023年版] | Business Insider Japan

【2023年最新】世界GDPランキング(国内総生産)・一人あたりのGDPランキングを紹介 | ELEMINIST(エレミニスト)

 

日本が脱成長している間に、隣の国がガンガン資本主義経済まわしてGDPを上げていたら、侵略戦争をしかけられた時、大丈夫なんだろうか。

全世界が一斉に「脱成長」するか、戦争が起こらないようにするか、それとも、軍事もコミュニズムでどうにかなるのか…そこらへんどうなんだろうなと思った。

 

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