先日、成田悠輔さんの「22世紀の民主主義」を読んだので、備忘録および感想を残しておきたいと思う。
備忘録
内容は「既存の民主主義はすでに劣化しており、崩壊しかかっている。だから、データとアルゴリズムによる"無意識民主主義"に置き換えよう」ということだった(ざっくり)。
民主主義の劣化とは?
- 2000年代に入ってから、民主主義的な国ほど経済成長が低迷している
- 民主国家ほどコロナで人が亡くなった
- ネットが拡散するフェイクニュース、陰謀論、ヘイトスピーチが選挙を浸食している
- ポピュリスト政治家(大衆からの人気を得ることに重きを置く政治家)が増殖した(アメリカではトランプ、日本ではNHK党・れいわ新選組・橋下徹を例に挙げていた)
いつから劣化した?
中世~20世紀までの数百年間は、民主主義が経済成長や公衆衛生に良い影響を与えていたそうだ。だが、今世紀に入ってから様子がおかしい。というわけで今世紀なにが起こったのか振り返ると、
- ITプラットフォーム(Amazon, Google 等)やSNS(Facebook, YouTube 等)の繁栄
- 中国のWTO(世界貿易機関)加盟で中国貿易が爆増し、アメリカの製造業が失墜
- リーマンショック
- アラブの春
そのうち、インターネットやSNSについて成田氏はこう分析している。
解決策
本書ではこれらを解決するために、1. 闘争、2. 逃走、3.構想という3段階の解決案が提示される。
1. 闘争案
- シルバー民主主義を脱するため、政治家に対して引退後に成果報酬年金を出す(ちな、シンガポールは大臣と官僚の給与が成果報酬型らしい)
- SNSの利用に課税したり、禁止したり、通信速度・人数を制限したりして、ネット民の同調・過激化を防ぐ
- 世代別選挙、余命で票に重みをつける、当事者の票に重みをつけ政策論点ごとに投票
- 投票装置の電子化
2. 逃走案
なんとこの2つ、前例がある上に、前者はプロジェクト(海上自治都市協会)が進行中というから驚きだ。
3. 構想案
「無意識データの取得」とは、インターネット、街の監視カメラ、家の中での会話、表情やリアクション、心拍数や安眠度合いといった、人々が無意識に発する情報をセンサーなどで計測し集めること。
感想
コンピュータ(データとアルゴリズム)が政治をする未来なんて、一昨年までは夢のまた夢だと思っていたけれど、最近のAIの目覚ましい進歩を見ると現実味を帯びてくる。
この本の無意識民主主義では、民意データを得るために、私たちの家での会話や表情まで全て盗聴・監視される。いくらデータに匿名性を持たせると言われても、常に何者かに盗聴されている・監視されているという前提での生活は、牢獄にいるようで結構ストレス感じるのでは?と思う。それとも慣れれば何も感じなくなるのだろうか。エドワード・スノーデンの話を聞くと、そもそも私たちはすでに盗聴・監視されているかもしれないけれど。
おまけ
この本の最初には「はじめに言い訳しておきたいこと」として、「政治にも、政治家にも、選挙にも、私はまるで興味が持てない」「この本のテーマについて私は素人だ」「ぜひ嘲笑してほしい」「反面教師となって海の藻屑と消えられれば幸福だ」と書いてある。
謙虚すぎる…と思うと同時に、本の内容を否定されたり批評されたりした時に「そんなの分かって書いてます」と、傷つかないための予防線を張っているようだとも感じた。
それなのに、本全体の要約が冒頭にあって、「この要約をできれば二回読んでほしい。一回目は本体を読む前、もう一回は本体を呼んだ後だ」と書いてある。
私のような低学歴で鳥頭の庶民が陥りがちな『最後まで読み切ったけど、結局何が言いたかったんだっけ?』と分からなくなる罠を防いでくれている。
幅広い人々に本の内容を理解してほしいと思わないと、こんな親切なことをわざわざ書かないだろう。
冒頭で自信なさげな表現をしつつも、本の内容をめっちゃ伝えたいという、この感じが成田さんらしいなぁと思う。
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